Star Trek 009     #3 My hearts'n the homeland



    第三話 我が心、故郷にあり   part2

「ジェット、おはよー」
「よう」
ターボリフトの前で、ジョーはジェットに追いついた。
昨日、スロットマシーンでジェットと遊んで…気付いたら自分の部屋のベットに、 制服のまま転がっていた。
リフトに乗り込みながら、ジョーは、 今日朝起きてからずっと抱えていた疑問をジェットに尋ねた。
「あのさ…昨日のことなんだけど…」
「ああ…昨日はびっくりしたぜ。
 お前いきなりスロットマシーンの前で寝るんだもんな」
思い出し笑いをこらえる為か、ジェットの頬が微妙に歪んでいる。
少々憮然としながら、ジョーが聞く。
「じゃあ、ジェットが僕を部屋に運んでくれたの?」
「おう。いや、礼はいらねえぜ。
 部屋に運んだだけだからな」
そうだろうとも。
なんせ、靴すら脱いでなかったし、毛布は僕の体のだったよ。
ジョーは、ジェットに礼ではなく、恨みを言いたい気で満載だった。
が、もちろんそんな事を彼に言える訳が無く、口から出たのは他の言葉だった。
「だって…あんなに遅くまで起きてたのは
 殆ど初めてだったんだからしょうがないよ」
ジョーの台詞に目をまん丸に開くジェット。
「遅いって…確か十一時くらいだったぞ。
 夜はこれからだろ?
 お前いつも何時くらいに寝てるんだよ」
「…十時くらいかな?
 もう少し早い時もあるけど」
ジェットの開いた口が、言葉どおりふさがらない。
ターボリフトがブリッジに到着し、ドアが開く直前にジェットがポツリと、 ジョーを横目で見ながら言った。
「…小学生(ガキ)かお前…」
っ…」
誰が小学生だよ、と言いたい気は山々だったが、 ブリッジの中央から艦長と副長の視線を感じたため、ジョーは口を閉じた。
…わざとタイミングを図ってるんだろうか…
一度ジェットに問いただしてみよう。
ジョーは、心に固く誓った。

任務はこの上なく順調だった。
他の艦隊の船とすれ違ったので挨拶を交わし、 遊惑星の軌道にかすってジェットの華麗なテクニック(本人談)ですり抜け、 一度、グレートが軽い小噺を披露してブリッジを沸かせた。
コースと前方の障害物にさえ注意していれば、ワープ航海中というのは案外暇なのだ。
このまま行けば、後三日程で、目的のDS9基地に到着する。

が、一本の通信が入ったことにより、事態は急変した。

「艦隊本部より通信が入っています」
ジョーが報告する。
ブリテンが、片眉を吊り上げ、ハインリヒもわずかに怪訝な顔をした。
ブリテンが訝しげに言う。
「通信?
 はて、一体何の用事だというのか…
 スクリーンに出してくれるかね」
スクリーンに映ったのは、ギルモア提督だった。
『おお、ドルフィン号の諸君。
 突然通信してすまんかったのう』
「一体全体どうしたというんです?」
ブリテンが問い掛ける。
スクリーンの中の提督は、脇に置いてあったパットを取り上げ、それを読み上げる。
『うむ、いきなりで悪いのじゃが、
 一つ任務を頼まれてくれんかの。
 君たちの居るその地点から2セクターほど行った所に、
 第125宇宙基地があるんじゃがね。
 そこからの要請なのだが、つい先ほど、
 奇妙な現象を観測したそうなんじゃ。
 それでその現象を調べる科学士官を借りたいということで、
 ちょっと君たちに行って貰えんかとおもっての。
 艦隊の科学調査船の中では、君達が一番近いところに居るのじゃよ』
ドルフィン号は、本来科学調査船である。
今回の航行は、たまたま特別に調べるべき宇宙の現象や、 惑星の調査任務も無かったので、DS9基地までの試運転の後、 医療物資を届ける、という貨物船の代わり(とはいえ、 医療物資の運搬というのはたいては急を要するので、 重要なことこの上ない任務でもある)を請け負っただけである。
だから、何か異常現象が見つかれば、そちらの任務が基本的には優先されるのだ。
「我々が…ですか?
 行くのは構いませんが、
 医療物資を届けるのはどうするんですか」
右の眉を丸く吊り上げながらハインリヒが聞く。
『それは心配無用じゃ。
 もう既に代わりの船を配置するよう手配した。
 詳しいことは、資料を送ったから、それを見とくれ。
 では、頼む。以上だ』
通信が切れ、ブリテンがくるりとブリッジに振り返った。
「と、言うことで」
ジェットに向かって軽く手を振る。
「我輩たちは、第125宇宙基地に行くことと相成った。
 リンク少尉、コースを変更して第125基地に向かってくれ」
「了解、コースセット完了。
 …科学調査船としちゃこれが本来の任務ってとこですか?」
ジェットの返答にブリテンが微笑む。
「医療物資を届けるのも大切だが、
 やはりこういう科学調査任務の方が
 気が引き締まるというのは認めるとも。
 腕慣らしは、ドルフィン号と君だけでなく、
 我らが優秀な科学士官たちも、ということになるな」
言って、ブリテンはジョーに向かって軽くウインクをした。
「科学士官としての君の働きに、期待しているよ」
オペレーター主任であるジョーの通常任務は、通信の送受信、及び解析。
だが、決してそれだけではない。
不明な現象の調査、解明のため、センサー記録を調べたり、 センサーの位置や方向を微調整するのも、ジョーの重要な役目であり、 調査任務の成功の鍵はオペレーターの腕一つ、とまで言われることもある。
ジョーにとっては、この調査が初めての重要な仕事になる。
腕の見せ所だ。
「了解、艦長!」
ジョーは意気込んで返答した。


「…と、言うわけで、基地の近くを浮遊していた小惑星が一つ、
 唐突に消えたそうだ」
ブリテンが、通信で受けた資料を披露する。
「消えた?」
ジェットが訝しげに眉を顰める。
「他の小惑星と衝突して粉々に砕け散ったじゃなくて、
 『消えた』…ですか?」
「跡形も無く、綺麗さっぱり、
 我輩の髪の毛のように見事に消えていたそうだよ」
ジェットの言葉に頷くブリテン。
ブリッジに思わず笑いが漏れる。
「…艦長の頭は…その…」
剃髪じゃなくて、と笑いを必死にかみ殺しながらジェットが言う。
「うむ。30過ぎたころからどんどん我輩の頭から
 髪の毛が脱走を始めよってな。
 行くなといってもまるで効かなかった」
軽く肩をすくめるブリテン。
「赤毛は禿げやすいそうだ。
 君もいつか、額がだんだん広くなるかもしれんぞ?」
ブリテンの台詞にギョッとしたように頭を押さえるジェット。
「…それ本当(マジ)ですか?」
そんな二人の応酬に呆れたように口を挟むハインリヒ。
「馬鹿なこと言い合ってないで、続きを」
お互いに肩を竦めあうジェットとブリテン。
「いかんぞ、副長。
 一寸したユーモアではないか。
 それを理解出来ないとは、嘆かわしい」
「馬鹿馬鹿しい」
ブリテンの言葉を一蹴するハインリヒ。
「おお、コワ」
ジェットが呟く。
ハインリヒがジェットを睥睨する。
普段、あまり表情を変えることの少ないジェロニモの口元も、僅かに緩んでいる。
ジョーは、必死に大声で笑ってしまわないよう俯いていた…が、 コンソールの上の手の震えまでは、止められなかった。

医療室で、フランソワーズは医療用の器具の手入れをしていた。
「コース変更で、科学調査任務になったそうですわね」
フランソワーズが、隣で同じく器具のメンテナンスをしている、 自分の上司のドクターに話し掛ける。
ドクターは無言で、フランソワーズのほうをちらりと見ただけで、 表情も変えなかったが、これは別にドクターが冷たい人物だからでは決して無い。
ドクターは、ヴァルカン人だからだ。
ヴァルカン人は、古くから地球と交流のある、論理を最重要視する種族だ。
その行動は、常に論理によって決定され、そこに感情を一切挟まない。
むしろ、幼いころから完璧に感情を抑制する訓練を受けており、 表情が変わることすら殆どありえない。
だから、ヴァルカン人を知らない人は、ヴァルカン人とは全く感情をもって居ない、 非情な種族なのだと勘違いしがちなのだが、決してそんなことは無い。
実際はとても情け深く、また一度親交を結んだ相手に対しては、 これ以上ないくらい誠実だ。
フランソワーズも、ドクターが相手に対してとても親身であることをもちろん承知していた。
だから、ドクターから別に返答がなくても気にしなかった… 彼がきちんと話を聞いてくれていることは判っていたし、 応答が必要な時にはちゃんと向き合ってくれるから。
「もちろん、調査任務を大切だと思いますけど、
 医療物資を届ける任務だって大切ですわ。
 代わりの船は、ちゃんと届けてくれるんでしょうか」
「代わりの船は、我々、ヴァルカンの貨物船だそうだ」
ドクターが、器具を見据えたまま返答する。
声に、感情の温度は見えなかったが、フランソワーズには、彼の温かさが『視』えた。
「必ず医療物資は必要とされているものの元へ届くだろう。
 …その器具のチェックは?」
「終わりました」
フランソワーズの答えに僅かに頷くドクター。
「よろしい」
他の種族で言うなら、満面の笑顔でもって誉められたようなものだ。
フランソワーズはにっこりと微笑んだ。
「有難うございます」

「センサーアレイの整備、あ、いやその前に
 センサーに回すエネルギー補給率の割り当ての見直しを頼む」
そのころ、機関部では上を下にの目の回るような忙しさだった。
科学調査任務では、もちろんセンサーを調節し、分析するオペレーターも重要だが、 そのセンサーがいい加減な状態では話にならない。
センサーの基本的な整備、回路の増強、センターに割り当てる艦内エネルギーを、 どれだけ回せるか。
機関部では、より良い状態で調査に臨むため、ピュンマの激が飛んでいた。
「主任、確認お願いします」
後ろから呼びかけられ、ピュンマは先ほどから格闘していたコンソールから顔を上げた。
パットを手渡される。 エネルギーの割り当てに関する回路設定がパットの中に並んでいた。
「ああ、ボーレスか。
 …うん、いいんじゃないか。
 あ、でももう少しここのセンサーリレーを調節してくれるかな」
「了解しました」
ボーレスが下がり、さぁもう一度コンソールと格闘すべしと、 ピュンマの頭の中でゴングがなったところで、また呼びかけられた。
「大尉」
はい?!
思わず不機嫌な声が出てしまった。
振り返ったそこに居たのは…目を真ん丸に見開いたジョーだった。
「…ご…ごめん…
 話し掛けちゃ駄目だった?」
おずおずとジョーが、叱られた子犬のような表情で言う。
慌てて謝るピュンマ。
「そ、そんなこと無いよ。
 一寸この回路調整が上手くいってなくてイライラしちゃって。
 当たってごめん…
 あ、で、何の用だい?」
「これ、届けるよう頼まれたんだ」
そういって、ジョーはピュンマにパットを何枚か手渡す。
「ああ、サンキュー。
 ついでに、今一寸時間ある?」
「一寸なら大丈夫だけど…なんで?」
「この回路調整、手伝ってもらえないかと思ってさ」
肩をすくめてピュンマが少し脇に寄り、 コンソールに表示された数式をジョーにわかるように問題の部分を指し示す。
ジョーはその数式をじっと見つめて…おもむろに、 ものすごい勢いで数式(コード)を打ち込み始めた。
「…っと。
 これでどうかな?
 複合方程式の応用使ってみたんだけど」
ピュンマが、ジョーの背後から覗き込む。
「すごいよ…ぼくがあんなに悩んでたのに、
 君があっさり解決しちゃうなんてな。
 こりゃ将来有望だな…
 今からでも遅くないよ、機関部勤務に変更しない?」
がっしとジョーの両手を握り締め、ピュンマがジョーを勧誘する。
「そりゃあいいですね。
 シマムラ少尉、こっち(機関部)に来ませんか?」
側に居たボーレスも話に悪乗りする。
「そ…そろそろ行かないと。
 それにほら、そういうのはさ、
 艦長に話すべきで僕の一存じゃあ決められないし」
ジョーは慌ててピュンマの手を振り解き、あとずさりながら言う。
「そこを何とか!」
ピュンマが、じりじりと近づきながら、畳み掛けるようにいう。
彼は本気だ。
「じ、じゃあ、頑張ってねっ!」
身の危険を感じたジョーは急いで機関部を後にした。


「まもなく、第125宇宙基地に到着します」
ジェットが報告する。
目の前のスクリーンには、既に宇宙基地が視認出来ていた。
125基地は、惑星『フロイデ』所属の小型宇宙基地だ。
フロイデは、工業用の金属等を採掘するための無人惑星で、 大きさは地球の月と同じ程度。
因みにフロイデの所属する太陽系は、『ベートーヴェン星系』… 別に作曲家ベートーヴェンと関係はなく、ここを調査した連邦の指揮官が、 クラシック好きで作曲家の名前を付けて回っただけである…と呼ばれ、 たまたまそこの惑星の軌道上に宇宙基地を作ることになって、 その番号が125番―ベートーヴェンの曲のop.125、即ち交響曲第9番と同じだったため、 それまで番号で呼ばれていたこの惑星に、改めてこの名前がつけられたそうだ。
「さてさて、歓喜を寄せられるかどうか。
 頼むぞ、諸君」
ブリテンがいつもより一人多いブリッジクルーを見回しながら言う。
ジョーの隣のサブコンソールに、ジョーの補佐役に科学士官が入ったからだ。
滑らかな青白い肌をした、ピンク色の髪の毛の女性士官である。
彼女の種族の指の間には発達した水かきがある。 大きな瞳とその肌の色があいまって、彼女はまるで蛙に似ていた。
昔こんな蛙飼ってたっけ。
ジョーは、サブコンソールを見つめる彼女の横顔をちらりと見ながら思った。
おたまじゃくしから育てて、大きくなったから近くの池に放してあげたんだよな。
ジョーの視線に気付いたのか、彼女が顔を上げた。
「どうかしましたか?」
「少尉は君に見惚れてたんじゃないか?」
ジェット!余計なこと言うなうよ!
ジョーが答える前に、ジェットがからかうように言った。
口をパクパクさせるジョーの頬が僅かに赤くなる。
とはいえ、ジョーとて、まさか女性に向かって、 『君が昔飼っていたいた蛙に似ていたから』なんて答えられないが。
「おやおや、我が期待の新人士官(ルーキー)殿は
 ヘニヨン士官が気になると見える」
艦長!
ブリテンのからかいに、さらに真赤になるジョー。
ジェットがもう一度口を開こうとしたところで、 ハインリヒがジェットの頭を軽く左手で小突いた。
「ちゃんと前を見ていろ、バカモン」
「へー…い」
口を尖らせるジェット。そんなジェットに冷ややかな視線を送りつつ、 ハインリヒはブリテンに向き直る。
「艦長」
氷塊が口をきいたらこんな感じか。
ブリッジの体感温度が数度は下がった。
「…分かってる、分かってる、
 真面目にやるとも、副長」
ブリテンが何か言われる前にと慌てて弁解する。
「分かってるなら、よろしいんです」
ハインリヒの視線の呪縛から逃れ、ほっと息を吐くブリテン。
ジョーの顔はまだ赤い。
ジョーがちらりとジェロニモの方を伺うと、彼はジョーに気付くとさりげなく視線をそらした。
…もしかして、ジェロニモ少佐も笑ってた…?
ジョーは、ほんのちょっぴり、落ち込んだ。

調査位置にドルフィン号が到着した。
「ようこそ、ドルフィン号の皆さん。
 …頼みますね」
基地の司令官とブリテンが交信する。
「はい、お任せください」
愛想よく応答するブリテン。
「調査範囲をこちらでもモニターします。
 何かあったら、報告お願いします」
普段は全く変化のないフロイデしか映らない基地のスクリーンに、 今日はドルフィン号が映し出された。

「まずは、センサーでざっとこの辺を調べてくれ」
通信を終えたブリテンが、ジョーに命じる。
「遊惑星は小さかったとはいえ、
 それでも大きさはこの船と同じくらいだそうだし、
 おそらく重量はもっと大きかっただろう。
 そんな物体が一瞬で消えるなんて、通常ありえない」
「消えるとしたら、時空の裂け目が発生して
 亜空間に落っこちたとかですか」
ジェットが言うのにハインリヒが首を振る。
「時空の裂け目が発生するポイントじゃあない。
 第一、惑星等の重量のある物質の側に
 そんなポイントは出来ない。
 たとえ出来たとしても、僅かなものだし、
 惑星の重力ですぐ消滅してしまう」
ブリテンが考え込みながら口を開く。
「ならば、時間のズレの所為で違う位相に変換された?」
「それならセンサーに時間のズレが起こった所為で出る
 ある特定の周波数が感知されます。
 …感知されていません。
 そうだな、シマムラ少尉」
ブリテンの仮説に再び首を振り、ハインリヒはジョーに呼びかけた。
頷くジョー。
「はい…位相変換が起こった痕跡はありません。
 ですが…」
「何だ?」
眉をぴくりと上げるブリテン。
「奇妙な周波数をかすかに探知。
 調査してみます」
ハインリヒが、ジョーのコンソールまで行ってジョーの手元を横から覗く。
「既にだいぶ消えかけているな。
 …何とか辿れないか?
 EMバンドを調整してみろ」
「はい、やってみます」
ジョーの手元がコンソールの上で踊り、 その隣のヘニヨン士官がセンサーの解析度を上げたとき。

スクリーンに、一気に閃光が走った。

なんなんだ!
ジェットが怒鳴る。
「不明!
 衝撃波が発生してます!」
ジェロニモも、珍しく焦ったように怒鳴り返す。
「スクリーンの明度を下げろ!
 シールド、オン!
 リフレクターを調整しろ」
ハインリヒはジェロニモに指示する。
スクリーンの光量が僅かに和らぎ…あまり効果はなかったが、 それでも何とか確認程度は出来た。

空間に、巨大な穴があいている。

「リンク少尉、安全区域まで下がれ!」
「駄目です、エンジン利きません!」
ブリテンの指示にジェットが叫ぶように報告する。
ドルフィン号が、ガクガクと揺れ始めるのを抑えようと、ジェットは必死にバランスを保つ。
「衝撃波、来ます!」
ジョーの報告にブリテンが、全艦内に指示を出す。
「緊急事態発生!
 総員衝撃に備えよ!」

空間の穴の中心部は、その絶対的な光量の発生とは裏腹に、 恐ろしいほどの闇をたたえていた。
ドルフィン号は、ぐいぐいとその中心に引き摺られていく。
まるで、悪魔の口に為す術もなく吸い込まれていく罪人のように。

全てを飲み込む光が去った後、125宇宙基地から見えたのは、 全く普段と変わらぬ、黒っぽい外見の惑星フロイデが浮かんでいるだけだった。

いつもと、同じ、光景だった。


『総員衝撃に備えよ!』
ブリテンの指示と同時に、医療室の警告灯が点灯する。
その一瞬後に、とてつもない衝撃が来た。
「きゃぁあっ?!」
掴まる間もなく衝撃に翻弄され、床に転がりかけるフランソワーズ。
それを押し止める、力強い腕…ドクターだ。
「しっかりつかまれ、中尉」
ドクターは近くの柱の出っ張りに掴まっていた。
あまりにしっかり掴まっている所為で、壁が僅かにへこんでいるようにも見える。
ドクターに触れられて、フランソワーズは僅かに落ち着きを取り戻した。
ヴァルカン人は、接触型テレパスであり、他人に触れる、などという行為は、 相手の感情を読み取ることになり、理性を重んじるヴァルカン人にとっては、 苦痛となりかねないのだが、ドクターは、フランソワーズをしっかりと抱きこんだ。
ドクターに触れられているところから、 ドクターの理路整然とした思考がフランソワーズに流れこむ。
「ドク」
「何か」
「有難うございます」
短いやり取り。
フランソワーズとドクターの思考が、一瞬溶け合い…

必死にセンサーと格闘するジョー。
何が起こっているのか。
ふと顔を上げると、ジェットも必死に船を操縦していた。
ハインリヒは、艦長席の背もたれ部に掴まり、 必死にブリテンが転がらないよう支えている。
隣では、ヘニヨン士官が壁ににしがみつき、その向こうではジェロニモが、 シールドを維持しようとコンソールと格闘していた。
ジョーは、自分のコンソールに掴まろうとした瞬間、 コンソールのパネル上に電気が漏れ、思わず手を緩めてしまった。
慌てて掴まり直そうとするも、彼の体は、床から僅かに浮いてしまった…

「ワープコアに注意しろ!」
機関室に誰かの怒号が飛ぶ。
衝撃で、ワープエンジンの反応スピードが、臨界点を突破しかかっていた。
何とか押さえ込もうと、ピュンマは必死になって、 ワープエンジンの前の操作パネルに張り付く。
隣で、ボーレスもコアの反応を抑えようとマニュアルで操作する。
衝撃の所為で、二人とも片手で掴まりながらの操作のため、思うようにいかない。
クソっ
ピュンマが珍しくスラングで悪態をつく。
「大尉!」
ピュンマが衝撃の所為でノイズの走るパネルをもっとよく見ようと身を乗り出したとき、 パネルの上でスパークが走った。
操作に気を取られて、それに気付かないピュンマ。
爆発する!
大尉、危ない!
ボーレスがピュンマを庇うように前に出た…



全てが光に包まれた。



















そして、闇。



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