『Chess Game』 「ポーンをG7に」 「残念だがそいつはこのナイトが取らせてもらうよ」 ブリテンがにやりと笑い、黒のナイトを動かして白のポーンを盤上から取り除く。 そのままとった駒を手のひらで弄ぶブリテンを見ながら、ハインリヒがぽつりと言った。 「…ナイトってジェットに似てるよな」 「何処がだね?」 片眉をあげて、ハインリヒに聞き返すブリテン。 ハインリヒが、視線で盤上を指し示した。 「盤上をぴょんぴょん飛びまわる所が」 いわれて、ブリテンもたった今動かしたばかりのナイトの駒を見る。 確かに、独特な動きをするこの駒は、すいすいと重力を感じさせずに 空を飛び回るジェットにそっくりかもしれない。 「なるほど、空を飛び回るところがか?」 が、ハインリヒは肩をすくめて否定した。 「空を飛ぶというか、  ぴょんぴょんと落ち着きの無い感じが似てると思わないか?」 それを聞いたブリテンは、思わず噴出した。 「なるほど、違いない。  ならば…この最強の駒、クイーンはイワンかな?」 そう言って、盤上の自軍のクイーンを指し示す。 それに、ハインリヒは、自軍の駒を動かしながら言った。 「むしろ取られたら一巻の終わり、キングだろ。  クイーンは…フランソワーズだな」 ハインリヒの台詞に、少し考え込むブリテン。 「…古今東西、女性は確かに最強であるからして、  その節ごもっともだが我輩はフランソワーズはビショップかと。  すらりとしたこの優美な姿、マドモアゼルに相応しい」 言いながら、ビショップを動かす。 それに答えて、ハインリヒはルークの駒を移動させる。 「姿でいうなら、どっしりと構えるルークはジェロニモかな」 「ふむ。確かに…おっと、後8手でチェックだ。  さて、どうするかね?」 ハインリヒが、ゆるく笑ってポーンを静かに動かした。 「…むう」 思わず唸るブリテン。にやりとハインリヒが笑った。 「後3手でチェック…そっちこそ、どうする?」 ブリテンは腕を組み、長考の姿勢をとる。 ハインリヒは、足を組替えた。 「まさかポーンがそこでくるとはな…  ジョーはポーンだな」 ブリテンの台詞に、ハインリヒが頷く。 「確かに、頼りなげに見えて戦略の要だし、  成り上がれば最強の駒にもなる  …成り上がるまでが長いが」 「そういうところもエンジンがかかるのが遅い彼にそっくりじゃないか」   * * * * * * * * * * ハインリヒとブリテンさんのチェス対決。 ナイトの駒は、2x3(あるいは3x2)の長方形のマスの斜めの対角線に進みます。