小ネタin酒場

「ヤっているうちに、だんだん冷たくなっていくわけっすよ。
 そのくせ、繋がっているところはまだあったかいんす、
 それもだんだん下がってきて、
 最高に冷たくなったところでフィニッシュ!
 たまらんっすよー」
にまにまと、好色じみた笑みを浮かべ、身振り手振りを交えながら、
マララーが意気込んで語る。
城下町の酒場。城に程近いここは、安くて美味い料理に、ごまかしのない酒が評判で、
兵士や城の召使たちの格好の息抜きとして、日々賑わっていた。
たまたまネーノとノーネが連れ立ってここに呑みにきたところ、
丁度同じようにこの酒場にきたDやアヒャ、マララーに見つかり、
そのままなんとなく5人で飲むことになったのだ。
時計回りにネノ、ノネ、アヒャ、マラ、Dと丸テーブルを囲み、酒場の片隅で盛り上がる。
尤も、アヒャはどうやら引き摺られてきた、といった方が正しいような感じで、
いまもちびちびと不味そうに酒を舐めているだけだったが。
男が5人集まり、酒が入れば当然話題はもっぱら女やセックスのことが中心で。
自分の性癖について熱く語るマララーに、Dが、 酒で口を潤しながら、興味なさげに呟いた。
「フーン…オレは生身の女がいいけどナ。
 ヤッパあの柔らかさがなくっちゃイカンヨ」
そういって、酒のマグをおき、両手で、こんな感じ、と女性の体のラインを示す。
そのあまりのリアルな手つきに、アヒャが一人赤くなった。
マララーが、ちっちっ、と得意げに指を振る。
「いやー俺は男でも女でも、死体なら良いんすよ。
 あの臭いと固さがたまらんっす」
そう言って、満足気に頷くマララーに、ノーネがげっそりとした口調で突っ込みを入れた。
「…頼むから、墓暴くのは止めて欲しいノーネ…」
つい先日も、 マララーが墓を暴いて死体と楽しんでいたところをばっちり目撃してしまった。
見たくもないものを見せられた、とノーネは思わず陰鬱となる。
暗雲を背負って、もそもそと兎肉のワイン煮込みを食べるノーネにかまわず、
マララーがふと思い出したように彼に向かって身体を乗り出した。
「…ところで墓守、いつも思ってたけど、お前良い臭いだよな。
 墓土の湿った臭いと、死体の腐った臭いが染み付いてやがる。
 やべ、たっt」
「それ以上言ったら、この場で頭打ち抜くぞ」
ネーノがおそろしく冷ややかな口調でマララーにつっこむ。
マララーは、言いかけた科白を飲み込み、ごまかすように酒をあおった。
気分を変えるように、ネーノが今までずっと黙っているアヒャに話を振る。
「少尉はどうなんだ?
 女の好みとか、あるんじゃネーノ?」
「イヤ、俺ハ、ソウイウコトハ…」
いきなり話を振られて、あたふたと口の中の酒を飲下しながらアヒャが答える。
マララーが、からかうように追い討ちをかけた。
「何ですかー、アヒャ少尉は好きな人はいないんすかー」
「…ってか、アヒャはつー妃殿下にぞっこんラブだろ?」
Dも悪乗りして、アヒャを意味ありげに見る。
見る見るうちにアヒャの顔が赤く染まった。
「オーオー、真赤になっちゃって、ウブだネー、ヒャヒャヒャ」
茹蛸のようなアヒャを見て、Dが心底楽しそうに爆笑する。
ネーノが、Dを小突いた。
「あんまからかうと可哀想なんじゃネーノ」
「ネーノ、顔が笑ってるノーネ」
口ではアヒャのことを庇いつつも、しっかり表情が緩んでいるネーノに、
ノーネも楽しそうにつっこむ。
「ソウイウ大尉タチハ、ドウナンデスカ!」
真赤になったアヒャが、思わず立ち上がりながら大きな声を出した。
がたん、という音に、酒場中の目が一瞬にして彼らのテーブルに向くものの、
喧嘩と言う訳ではないらしい、と見て取ってのか、 あっさり皆の興味の対象から外れたが、
瞬間集まった視線に、ノーネが慌ててアヒャに座るよう促す。
「ノーコメント♪」
「死体なら何でも♪」
Dとマララーが、唄うように答える。
アヒャは、開き直る二人に、言いたいことは山のようにあれど、
言うべき言葉が見つからず、思わず口をパクパクさせた。
「俺は…」
ネーノもふざけて続けようとしたところで、Dがふと、遮った。
「ネーノちゃんはアレだろ?」
「アア、アノ人デスネ」
Dの科白に、ノーネに促されて多少落ち着いたアヒャも、
座りながらDの指す人に思いあたったように答える。
マララーも思いあたったのか、ウンウンと深く頷く。
「…は?誰だ?」
思いあたらないのはネーノで。
きょとん、と聞き返す。
ノーネをちらりと見たが、ノーネは曖昧な表情で肩をすくめただけだった。
「アレだけの上玉が側にいりゃー、
 ソリャ女の望みが高くなるってのも当然だけどネー」
Dがさらに、言葉を続ける。
ネーノは、必死に自分の周囲にいる女性、部屋の掃除をするメイドや、
城で顔なじみのメイドたち、贔屓の娼婦(コルティジャーナ)に、
挙句の果てに最近知り合ったばかりのジプシーまで思い浮かべるものの、
決定的にこの人だ、という女性に全く心当たりがない。
「だから誰だって?」
眉根を寄せながら聞き返すネーノに、マララーがここぞとばかりに応えた。
「とぼけちゃってー。
 し・さ・い・さ・ま♪ですよ」
「…はいっ?」
ご丁寧に一音節ずつ区切って言われた言葉に、ネーノが思わず素で聞き返す。
ネーノの脳裏に、それまで思い出していた『女性』全ての顔を押しのけて、
『男性』のシーンの顔が広がった。
マララーが指を折りながら、さらに続けてシーンの長所を上げていく。
「気立ては優しい、顔は綺麗、その上貴族出身、身分も上々」
「…いくら綺麗な顔してるからって、シーンは男なんじゃネーノ?
 俺はそういう趣味は御免こうむりたいんじゃネーノ」
ネーノの声が、普段よりたっぷり一オクターブは低い。
確かに、最初出会ったときは、シーンのことを女の子と間違えたという過去もあるが。
今でもたまに、シーンを女性と間違える人も、いないわけではないが。
見る見るうちに機嫌が急降下するネーノに、マララーが全く気にすることなく応えた。
「イヤーでもあれだけ綺麗な顔してりゃー、
 その気がなくてもついうっかり、とかあるっしょー? 」
「…マサカあるのか?『うっかり』ガ」
ボソリとDがあきれたように呟いたあとで、まあ、こいつならありそうだな、
と思い直し、レンズ豆とネギのパイ包みを頬張る。
ネーノは、無言で己のヒップホルスターから、愛用の銃を取り出した。
「まあ、自分は男でもっ…て、うわー待って、待ってください、 止めて下さい」
マガジンの残弾確認をするネーノにようやく気づいたマララーが、本気で慌てた。
ネーノは無視して、ひたり、と銃口をマララーの頭に向ける。
目が、本気だ。
指は、しっかりトリガーにかかっていた。
「どうかお願いします、 銃を仕舞って下さい審問官様、
 俺が悪かったです」
「次言ったら、射撃の的にしてやるから覚悟しとけ」
頭をテーブルに擦りつけるようにして謝るマララーに、 ネーノはにこりともせずに言い放った。
一転、情けない表情のマララーにDがひたすら楽しそうにケタケタ笑い転げる。
「正直ふざけすぎました、ごめんなさい、もう言いません、許してください」
声に滲む明らかな殺気と、いまだトリガーから外されぬネーノの指に、
マララーは顔面蒼白になりつつ、ひたすら頭を下げた。

「…そろそろ帰りたくなって来たノーネ…」
ノーネが、いい加減ついていけなくなった、とげっそりしたように呟く。
酒を飲むのは好きだが、Dたちに会うとどうにもこういう話題ばかりで、
こういう話題が嫌いな訳ではもちろんないが、ノーネの趣味とは少々合わない。
隣に座るアヒャは、さらに暗い表情で、それにボソリと応えた。
「…俺ナンカ最初カラ
 帰リタクテ仕方ガ無インデスケド…ダレカタスケテ…」
夜はまだ長い。
Dの爆笑する声をバックに聞きながら、アヒャとノーネは揃って嘆息した。

おわる。


ごまかしのない酒…中世頃のヨーロッパでは、ワインは水割りにして、
スパイスなどを加えて飲んでいたが、その場合、ワインと水の比率は1:1くらいが普通。
ただし、安い酒場ではさらに水の量をふやすことが多かった。
娼婦(コルティジャーナ)…高級娼婦のこと。
美しく、教養が高いごく一部の娼婦の中には、貴族のような生活をするものまで居たが、
通常の娼婦は心身ともにぼろぼろになるまで酷使され、20代の若いうちに
暗い道端で野垂れ死ぬことがほとんどだった。
マガジン…銃の弾が入っているケースの部分のこと。
因みにグロック17の最大装填数は17発ですが、フルロードすると詰まりやすいので、
実際ネーノが装填してるのは15発くらいです。


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超小ネタ。下ネタでゴメン…!!
ちなみにDの頬張ってるレンズ豆とネギのパイ包みは、 本当はネーノが頼んだものだったり(笑)


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